モデルで女優の山田優が自身のInstagramに「天皇皇后両陛下お疲れ様でした」と投稿し、ネット上で「皇室をなんだと思っているのでしょうか」などと批判が殺到していると一部メディアが伝えていました。この件について「三省堂国語辞典」の編集委員を務める国語辞典編纂者の飯間浩明氏が自身のTwitterで「一般的には、目上に『お疲れさまでした』と言ったとしても問題ない」と解説しています。
「お疲れさまでした」目上にと言ったとしても問題ない、国語辞典編纂者が解説
モデルで女優の山田優が4月30日、自身のInstagramを更新。退位される天皇陛下へ「天皇皇后両陛下お疲れ様でした」と投稿し、一部のユーザーから「皇室をなんだと思っているのでしょうか」などと批判の声が寄せられていたと デイリーニュースオンラインが伝えていました。
この記事を受け、「三省堂国語辞典」の編集委員で国語辞典編纂者の飯間浩明氏が自身のTwitterを更新。「一般的には、目上に『お疲れさまでした』と言ったとしても問題ない」と理由を解説しています。
飯間氏は「目上への『お疲れさまでした』が不可とされるなら、それは新しい謎ルールの誕生」だとしたうえで、「(日本語の使い方としては)べつに間違っとらん」とコメント。
「天皇皇后両陛下お疲れ様でした」というインスタグラムの投稿が炎上したそうです。目上への「お疲れさまでした」が不可とされるなら、それは新しい謎ルールの誕生だとしか言えません。炎上を伝えるニュースは〈日本語の使い方としては間違っているかもしれないが〉と述べますが、べつに間違っとらん。
— 飯間浩明 (@IIMA_Hiroaki) 2019年5月6日
小林多計士『ごきげんよう 挨拶ことばの起源と変遷』などによれば、「お疲れさま」はもともとは芸能人の間で階級抜きの挨拶として使われ、戦後に一般に伝播したようです。ただし、島崎藤村「破戒」には〈『おつかれ』(今晩は)〉という農村の挨拶があり、起源はけっこう古いらしい。
— 飯間浩明 (@IIMA_Hiroaki) 2019年5月6日
昔は目上に対しては「ご苦労さまでした」が使われていたといい、過去には昭和天皇に三木首相や中曽根首相が「ご苦労様で(ございま)した」と述べたこともあるとのこと。
目上に「ご苦労さま」は失礼というルールが誕生したのは20世紀末で、1990年代には「上司には『ご苦労さま』より『お疲れさま』がふさわしい」と言われるようになり、2005年度の国語世論調査では、「お疲れさまでした」は目上への挨拶の新スタンダードになっていたと説明しています。
昔は、目上に対して「ご苦労さまでした」が普通に使われました。昭和天皇に対して三木首相(昭在位50年記念式典)や中曽根首相(在位60年記念式典)が「ご苦労さまで(ございま)した」と述べた例も報告されています。ところが、20世紀末に「目上に『ご苦労さま』は失礼」という謎ルールが生まれます。
— 飯間浩明 (@IIMA_Hiroaki) 2019年5月6日
倉持益子さんの研究では、1990年代に「上司には『ご苦労さま』より『お疲れさま』がふさわしい」と言われるようになった模様。平成17(2005)年度の国語世論調査では、上司をねぎらう場合に7割近くが「お疲れさま」を選んでいます。「お疲れさまでした」は目上への挨拶の新スタンダードだったのです。
— 飯間浩明 (@IIMA_Hiroaki) 2019年5月6日
飯間氏は、目下から「お疲れさま」「ご苦労さま」を言われたくないという人への「配慮はあってもいい」としつつ、「一般的に、目上に『お疲れさまでした』と言ったとしても問題ない。集中的に批判されるようなことではありません」としています。
「ご苦労さまでした」にしろ「お疲れさまでした」にしろ、「俺は苦労も疲れもしとらん」「目下から言われたくない」と思う人は当然います。そういう人への配慮はあっていい。でも、一般的には、目上に「お疲れさまでした」と言ったとしても問題ない。集中的に批判されるようなことではありません。
— 飯間浩明 (@IIMA_Hiroaki) 2019年5月6日
訂正です。〈昭在位50年〉→〈在位50年〉。失礼しました。
— 飯間浩明 (@IIMA_Hiroaki) 2019年5月6日
各種国語辞典が「お疲れさま」は目上に(も)使うと記す中、『新明解』(旧版)は「目上の人には用いない」とあり、異例です。このことも記しておきます。昔の語感で説明しているのかもしれません。現在、「お疲れさま」を目上に用いてOKという辞書は多く、この用法を不可とするのはやはり酷でしょう。 pic.twitter.com/sZhEWU4iOB
— 飯間浩明 (@IIMA_Hiroaki) 2019年5月6日
「お疲れ様は目上の人に使ってはイケナイ」はマナー本などの影響
またライターで「異名・ニックネーム辞典」を編纂した杉村喜光氏も自身のTwitterで山田優の投稿が批判されていることに触れ、「この『お疲れ様は目上の人に使ってはイケナイ』は平成になってからマナー本などに登場した新ルール」だと指摘。
マナー本に「近年はそう思われている」「社外でも挨拶には使わないほうがいい」などと書かれていることで、「ジワジワとこれが正しいマナーになっている最中」だと説明しています。
山田優さんの「天皇皇后両陛下 お疲れ様でした」発言が炎上中らしい。
— 杉村喜光:知泉(三省堂辞典発売中 (@tisensugimura) 2019年5月5日
この「お疲れ様は目上の人に使ってはイケナイ」は平成になってからマナー本などに登場した新ルールだよね。本来は上下関係なし。
それ以前に記事の「違和感を感じる」が…。 pic.twitter.com/axgcAGrS2c
「本来は上下関係はない言葉」と判っているマナー本でも「近年はそう思われているので、会社内ならば大丈夫でも社外での挨拶には使わない方が良いでしょう」などと書かれていることもあって、ジワジワとこれが正しいマナーになっている最中。
— 杉村喜光:知泉(三省堂辞典発売中 (@tisensugimura) 2019年5月5日
杉村氏は「基本的に『お疲れさま』で問題はないと思う」と見解を述べ、「『ご苦労様は目下からはダメ』も80年代後半ぐらいに登場したルールのハズ」と説明しています。
レスで「じゃなんて言えばいいんだ」という意見があるけれど、基本的に「お疲れさま」で問題はないと思う。ねぎらうというのが目下からでは失礼だと書いてる人もいるけれど、ねぎらう気持ちは大切。それで目くじら立てる人にはゴメンナサイを言って、心の中で「面倒臭い人」とチェックしておく感じで
— 杉村喜光:知泉(三省堂辞典発売中 (@tisensugimura) 2019年5月6日
「天皇皇后両陛下に失礼」という意見もあるけど、心からお疲れ様でしたと感謝を込めて言っているのだから大丈夫だと思う。
— 杉村喜光:知泉(三省堂辞典発売中 (@tisensugimura) 2019年5月6日
皇室に対して、呼称がサンからサマに変わってしまったり、異常に硬直化している現状より、もっとフラットな気持ちで身近に感じているスタンスでいいと思うけどね。
また「90年代初頭は謎マナーが多く登場し『徳利の注ぎ口から注いじゃダメ』『結婚式の引き出物にお茶はダメ』とかもそう」と補足。
「言葉は生きているので時代と共に意味が変わるのは面白い」としながらも「人為的な力が加わった変化は気持ち悪い」とコメントしています。
ついでに「ご苦労様は目下からはダメ」も80年代後半ぐらいに登場したルールのハズ。バブル期の就職ガイドとかで最初読んだような記憶。それがついに「お疲れ様」までという感じ。
— 杉村喜光:知泉(三省堂辞典発売中 (@tisensugimura) 2019年5月6日
90年代初頭は謎マナーが多く登場し「徳利の注ぎ口から注いじゃダメ」「結婚式の引き出物にお茶はダメ」とかもそう。
言葉は生きているので時代と共に意味が変わるのは面白いけど、この「お疲れ様」みたいな人為的な力が加わった変化は気持ち悪い。それによって過去の用例が否定されるのも。
— 杉村喜光:知泉(三省堂辞典発売中 (@tisensugimura) 2019年5月6日
先日書いた「渋滞」に新しい用例として「キャラが渋滞する」みたいなニュアンスが加わるのは楽しい。https://t.co/mAWAOpTAbQ
昔は「ご苦労様」を目上に使っても誰も騒がなかった例。
— 杉村喜光:知泉(三省堂辞典発売中 (@tisensugimura) 2019年5月7日
1976年(昭和51年)「天皇在位50年式典」で三木武夫首相による「陛下、本当にご苦労様でした」https://t.co/gWYw77mzNb